小説 / 歴史・時代
連載中 蕎麦屋玄蔵影打ち控
作品の長さ:20,887文字
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藤玄蔵(ふじげんぞう)は、元南町奉行所の切れ者同心だったが、思うところあって公職を辞し、屋台蕎麦屋となる。
そして…。
「屋台蕎屋としては蕎麦を打ち、影においては悪を打つ」
玄蔵の第二の人生が始まった。
玄蔵がふるう、人を斬るための利刀業物(わざもの)として名高い、長曽根虎徹入道興里(ながそねこてつにゅうどうおきさと)の大刀が、今宵も悪を打つ!
その反面……
(人殺しが打った蕎麦を口に入れていると知ったら……この人達は果たして、このような笑顔を見せてくれるだろうか……)
と、玄蔵は蕎麦屋台の客達の顔を見る。
皆、胸の裡には、人に言えない苦悩や、どうしようもない迷いを秘めているに違いなかったが、今は屈託のない笑い顔一色だ。
そんな笑顔を見るにつけ、
(ああ……この人達のこのひとときの笑顔のために……私は蕎麦を打ち……影で悪人どもを打っていこう)
と、玄蔵は改めて思い直す。
そして、いつも決まって―――
(いずれ、たった一人で地獄へ墮ちるに違いないが……な)
唇に薄く自嘲を浮かべるのだった。