連載中 荼毘に付するが如く業火に焼かるる
作品の長さ:5,654文字
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刺青師としては、彼程の腕前はいないという噂が広がっていた伊織の元に、ある日突然、清楚で美しい女性が訪れる。
彼女の名は、卯田 恵。
どこからどう見ても、刺青どころか、タトゥーやピアスですら無縁といえるような、今時、珍しいタイプの女性であるにも関わらず、彼女は何故か、白い大蛇を自身の躰に宿したいと懇願する。
不思議に思い、伊織は彼女に理由を尋ねる。
すると、夢の中で白い大蛇のお告げがあったと言う。
彼女の身に、白い大蛇の魂を宿せば、その力が得られると……。
恵と白い大蛇との出会いと繋がり。
そして、現実的ではない摩訶不思議な話を笑い飛ばす訳でもなく、最後まで話を聞いた上で、彼女の依頼を受ける事にした伊織。
伊織もまた、恵の身に白い大蛇が宿った時、一体何が起きるのかという好奇心と、自分の彫った刺青に白い大蛇の「魂」が宿るのではないかという欲求に打ち勝てなかったのだ。
ゆっくりと静かに彫り進められていく刺青のように、物語もゆっくりと進み、墨が躰に染み込んでいくよう徐々に、本当の恐怖を含ませていく。
一つの過程が終わる度に、彼女の身に起こる幸運と不思議な体験。
それによって、益々、白い大蛇に盲信する恵。
伊織の元に訪れた、もう一人の依頼人である清水功というヤクザもんの背中に彫られた犬夜叉姫とガシャ髑髏の悲恋と仁義の物語を織り交ぜながら、刺青の奥に隠された人間の暗部を浮き彫りにしていく。
恵の躰に彫られて行く刺青が完成に近づくにつれて、奇妙な出来事が次々と起こっていく事で、伊織自身、何度も中断しようとするのだが時既に遅し。
うまく白い大蛇と恵を騙して、その魂の復活を無かった事にしようと計画するも、先読みしていた白い大蛇によって伊織の魂胆は見破られ、結局、恵の躰に最悪なタイミングで白い大蛇の魂が宿り、恵の躰を喰らい尽くしてしまう。
白い大蛇は恵に力を与えるのではなく、自分自身に力を宿す為に恵を利用したのであった。
実は、伊織はこうなることが全て解っていた。
彼の施術室の奥にある秘密の部屋。そこで彼は懺悔するのだった。